世界最高峰の機関に認められた画期的な冷却技術

 そして、今回の発表のもう一つの注目点が、産業技術総合研究所や理化学研究所などの日本の先端研究所ではなく、台湾の世界最高峰と言われる半導体の研究機関であるITRI(工業技術研究院)がこの技術を高く評価し、その最新技術を供与してまで共同開発をしようと申し出たことだ。ITRIは、TSMCの創業者として著名なモーリス・チャン氏がその発展期に院長を務めたことでも知られる。台湾政府肝入りで設立されたTSMCの生みの親と言っても良い存在であり、世界中の半導体専門家が一目置く研究機関だ。その最先端の知見があるからこそ、この技術の重要性を見出したということだろう。日本の研究所は完全に出し抜かれてしまった。

 そのITRIの指摘を待つまでもなく、この話は、実は単なる冷却技術と消費電力の低減という話にはとどまらない。

 それは、先端半導体の製造技術のあり方を根本から変える破壊力のある発明だということである。

 半導体は高性能化すればするほど電力を消費するが、それは同時に発熱することを意味する。しかし、発熱は半導体にとっては大敵である。

 半導体のシリコンと有機サブストレート基板材料の間には、熱膨張率の差がある。高熱になれば、それによりそれらの大きさに差が生じ、両者間の1万本もの接続点が多数破断するおそれがある。このため、100度超における熱膨張の差が一定範囲に収まるようになるべく小さな基板上に回路を描く必要が生じる。そのために微細化と、シリコンインターポーザーと呼ばれる特殊な中敷き構造が重要になるわけだ。しかし、発熱を25度にまで抑えられれば、この熱膨張の問題から解放され、大きな基板でもよいという発想の転換が可能になる。特殊な中敷き構造も不要にできる。大きくて済めば、多くの製造上の条件が緩和されて歩留まりは飛躍的に上がるので、現在、歩留まりの向上で苦戦しているHBMなどでは生産効率と量産数量を大幅に引き上げることが可能になる。パッケージングでも同じことが起こり、CoWoSという特殊なパッケージング技術に頼らなくて済む可能性が広がる。

 また、現状では発熱によって半導体の性能が大きく落ちてしまうという問題がある。このため、105度(または100度)の条件でも安定稼働を得られるようにするために膨大な設計工数が割かれ、また半導体面積が大きくなる原因にもなっていた。GPGPUを25度の条件で安定稼働させることが可能となれば、これまでの53年間に及ぶ半導体設計が一新され、半導体設計工数と期間の圧縮、半導体面積の縮小、半導体消費電力の削減、半導体駆動速度の向上などの副次的な、しかし極めて大きなメリットを享受できることが期待される。

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