全国に広がっている公立中高一貫校。安い授業料で6年間じっくり学ぶことができるのが魅力のひとつだ。だが、都市部ではその意義が曖昧になっている。AERA 2024年7月1日号より。
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首都圏では最近、公立中高一貫校の意義が見えづらくなっている。
都内の公立中高一貫校の倍率は相変わらず高く、最も高い学校は4.5倍を超えている。その魅力のひとつは、学費が安いことだ。家庭の経済環境によらずチャンスがあるはずが、今、この点がかなり難しくなっているのだ。
都立中高一貫校受験で有名な進学塾「ena」が公表している同塾出身者の今年の都立と区立中高一貫の合格実績は全体で1100人超。都立中高一貫の入学定員の65%を占め、中には合格者の8割が同塾出身者という学校もある。つまり、都立の中高一貫校に行くために、大半の生徒が塾に通っているということであり、それができる経済的基盤のある家庭でないと入学できなくなっているのだ。
私立中との併願増える
中学受験に詳しい進学塾「栄光ゼミナール」入試情報センターの藤田利通さんは、こう話す。
「公立中高一貫受験者の場合、以前は落ちたら地元公立中にという流れもありましたが、最近は併願する私立中に進学するケースも徐々に増えています。公立は学費が安いからというよりも、6年一貫教育に魅力を感じて受験をする家庭がほとんどです」
実際、都立中高一貫受験の印象の強かった「ena」も、私立中学受験コースを導入し力を入れ始めている。「ena」の母体である学究社の今年3月期の決算説明会資料には「つかめ、私立も都立も。」というスローガンが載っている。ある大手中学受験塾の関係者は、
「enaさんが私立受験に乗り出したのも私立との併願家庭の増加を意識してのことだと思う」
と漏らす。
私立との併願が増えているのは、受験制度によるところも大きい。都内の公立中高一貫の場合、受験できるのは1校のみ、受験回数も1回だけだ。適性検査型入試を導入する私立が増えたということもあるが、何年も準備にかけてきた家庭からすると、公立中高一貫だけ目指すのはもったいないという意識も働くからだろう。