さらに東京特有の事情も重なる。東京では世帯年収が1千万円あったとしても、子育て世代においては家計が厳しい場合が多々ある。

中高一貫校は高嶺の花

 主に家計を圧迫しているのは、家賃だ。不動産情報サービス事業を展開する「LIFULL」の調べでは、東京23区内のファミリー向け物件の賃料は増加傾向が続いていて、ここ1年で3.2万円上昇、平均家賃は一気に20万円を超え21万1618円となった。実に神奈川県の2倍以上だ。

「勤務先からの家賃補助がある家庭もあるが、全て自己負担のところもあるため、年収1千万だからと言ってゆとりがあるとは限らない」(氏家さん)

 所得制限をギリギリ超えてしまっていたという家庭にとっては上限撤廃は嬉しい知らせではあるものの、だからといって安易に中学受験を選ぶことは危険ということだ。

 教育政策に詳しい東京大学の鈴木寛教授は、公立中高一貫について、「どうしても作りたいならば、私立との役割分担を考えて所得制限を設けた募集枠を作るとか、選考方法を変えるなど方法はあるはず」と指摘する。また、高校実質無償化など税金を使って行なう教育政策は、公助として何をすべきかを考える必要があるという。東京都の場合、課題とそれに対する処方箋が食い違っているとも。「他県と比べて生活費にかかるコストが高いというのが理由なら、所得制限の上限を上げればいい。今、東京都の高校が抱えている課題はそこではなく、教育の質の問題。質の高い教員の確保と、生徒の人数あたりの教員数を上げる方が現在の課題の処方箋としてはマッチします。質と数の確保に必要なのは人件費です。全員に助成金を配って無償化するよりも、ここに充てるお金を私立高校含めて学校に直接配分した方が効果的だと思う」(鈴木教授)

 公立中高一貫に行くにしても高額な塾代は必要で、私立高校の授業料実質無償化といっても負担がゼロになるわけではない──。都市部の中高一貫校は、公立も私立も“高嶺の花”に変わりはないようだ。(フリーランス記者・宮本さおり)

AERA 2024年7月1日号より抜粋

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