大学院では、ウェルナー症候群の原因遺伝子であるWRNが二本鎖DNAを巻き戻すヘリカーゼであったこともあって、同じくヘリカーゼが大切な役割を担っているDNA複製の研究領域へ進みました。実際には研究に使った生物が、分裂酵母として対称に分裂する細胞だったので、どちらがお母さんで、どちらが娘細胞かわからず老化研究はできませんでしたが。それでも7年もの間、正井久雄先生(現・東京都医学総合研究所所長)にお世話になり、分子生物学や、生化学、遺伝学など多くの研究の基礎を叩き込んでいただきました。

 また、自分一人でできることに限界を感じてからというもの、できるだけ周囲の人と交わるようにしました。引きこもっている人生など、あまりにもったいない。正井先生の反対を押し切って老化研究の留学をしたボストンでは、スタートアップや投資、開発といったことを勉強するために積極的にコミュニティの立ち上げも始めました。基礎研究から実際に人が使える製品化に至るまで、臨床試験から逆算しながら投資家などの橋渡しのスペシャリストとスクラムを組んで前進する過程は、新しい世界でした。
 

 ボストンだけではなく西海岸を含め、米国では老化に対する治療法の開発が活発です。

 次第に見えてきたのは、老化研究による革新のニーズ、もしくは若返り効果などによって恩恵を受けるのは、必ずしも本人だけじゃないということです。家族、介護者、病院経営者、保険会社など個人からコミュニティへ広がり、経済的メリットも生み出していく。要するに、エイジングの革新は、社会の革新でもあったのです。今後、老化の治療が可能になる世界は、今の私たちが思いもしないような広がりを見せていくはずです。貨幣システムや宇宙開発においてまで、インターネットやAIのような技術をプラットフォームにしながら大きく進化していくことでしょう。

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双子であっても異なる老化