
ただしチャンスは1回きり
「夜になると、すべての働きバチが巣に戻ってきます。直径3センチほどの出入り口には『門番』のハチが顔を出していますが、半分眠りこけている。その穴をアルコールで湿らせた脱脂綿でふさげばいい」
巣の中のハチは、気化したアルコールを吸って昏睡状態になる。それを待って、ポリ袋で巣を覆い、切り離せば駆除は完了だ。
なんだ、簡単じゃないか。そう思っていると、清水さんから念を押された。
「チャンスは1回きりで、2度目はありません。一発で的確に出入り口をふさがないと巣が揺れ、中のハチが噴き出すように飛び立ち、めった刺しにされてしまいます」
ちなみに、働きバチは人間が歩く際の振動に極めて敏感なので、巣には慎重に近づく必要がある。気づかれれば、おしまいだ。素人が自分で駆除するには、かなりの技がいりそうだ。
自治体によってはスズメバチの駆除用に防護服の貸し出しを行っている。駆除に失敗しても、防護服を着ておけば自分が刺される心配はないが、スズメバチが多数躍り出れば、近所に迷惑をかけてしまうかもしれない。無理は禁物だ。

夏に向けて巣は巨大化
夏になると、巣はさらに巨大化する。清水さんは倉庫の中に保管してあったキイロスズメバチの巣を見せてくれた。全長約80センチ。
「この大きさだと、スズメバチは数万匹ほどです」
大きな巣は1.5メートルにもなるという。こうなると、素人の手に負える規模ではない。

料金の相場は5万円前後
スズメバチの駆除料金は業者によって異なるが、相場は5万円前後。駆除費用を全額負担したり、補助金を出してくれたりする自治体もある。
「駆除の依頼が増えてくるのは5月ですが、ピークは8~9月。ピーク時は生息数が増えるので、スズメバチを見つけやすい」
逆に、女王バチが巣を作りだす今の時期は、駆除はたやすいが、見つけにくい。
スズメバチが巣を作りやすい場所――雨や風の当たらない軒下や葉の密集した常緑樹を、日ごろから注意して見ておく必要があるという。

キイロスズメバチを警戒すべし
都内で依頼が多いのは、比較的小型のキイロスズメバチとコガタスズメバチで、大型のオオスズメバチは少ない。
「オオスズメバチは大木の根元や斜面の土の中に巣を作ります。都心の大木は根元までコンクリートで覆われているので、23区内では駆除の依頼はほぼありません」
唯一の例外は、皇居だ。「皇居には豊かな自然が残っていて、さまざまな生き物が生息している」という。
ほぼオオスズメバチがいない、という言葉に安心していると、釘を刺された。
「オオスズメバチよりもキイロスズメバチに注意すべきです。最も攻撃性が高く、集団で襲う能力が優れているうえ、ひとつの巣にすむハチの数がものすごく多いんです」