固い表情でソフトバンクへの移籍会見に臨んだ山川=2023年12月19日

「何をしてもいいのか」とFA移籍にファンは反発

 5カ月前。昨年12月に西武からソフトバンクFA移籍した際の山川の入団会見は異様な雰囲気に包まれていた。晴れの舞台にもかかわらず、山川に笑顔はなかった。

 山川は昨年5月、20代の女性への強制性交の疑いがあると週刊誌で報じられ、一軍登録を抹消された。警視庁から強制性交等の容疑で書類送検され、8月に嫌疑不十分で不起訴処分となったが、西武球団からは無期限の出場停止処分を受け、そのままシーズンを終えた。昨季の一軍出場は17試合にとどまり、本塁打はゼロ。4番を想定外の事態で失ったチームは5位に沈んだ。

 山川は故障者特例措置で取得したFA権を行使し、昨年オフにソフトバンクへの移籍を決断した。だが、主砲を失う西武ファンだけでなく、ソフトバンクファンからも厳しい声が多かった。SNS上では、「強くなるためには何をしてもいいのか」「ファンの心情をもうちょっと考えてほしい」など、ソフトバンクファンから獲得に反発する声が上がった。

 今はどうか。厳しい視線にさらされる中、山川がグラウンド上で結果を残し続けることで、風向きは変わりつつある。

 福岡市博多区在住でソフトバンクを応援して45年という会社員の男性(52)は、山川獲得に賛同できないファンの一人だった。だが、その心情に変化が生まれているという。
「過去の過ちを反省しているでしょうし、今はソフトバンクのために頑張ってくれている。いつまでも応援しないのは違うかなと。僕の周りも山川を応援しているファンがたくさんいます。今やチームに不可欠な存在なので打ち続けてほしいですね」

 山川が打席に入ると、ソフトバンクファンから大きな声援が送られる。東京都在住の女性(43)は「グラウンドで結果を出すことが禊(みそぎ)になるとは思いません。でも、大きな覚悟を持って移籍してきてくれたと思うので応援で支えたいと思います」とエールを送る。

 山川のFA補強はチーム事情に起因している。ソフトバンクは17年からパ・リーグ史上初の4年連続日本一と黄金時代を築いたが、21年に8年ぶりのBクラスに沈み、工藤公康監督が退任。藤本博史監督が就任したが、22年はマジック1からまさかの2連敗でオリックスに逆転優勝された。昨年はオリックスに15.5ゲームの大差をつけられて3位に終わり、3年連続のV逸。藤本監督はわずか2シーズンで退任し、侍ジャパンの監督も経験した小久保裕紀監督がV奪還を託されて就任した。

 生え抜きの選手たちが中心となって常勝軍団を築いてきたが、優勝から遠ざかり、得点力を上げるためには、右の長距離砲を必要としていた。そこで、批判覚悟で獲得に踏み切ったのが、ライバル球団・西武の4番として3度本塁打王を獲得するなど、球界を代表するホームランアーティストの山川だった。ソフトバンクが山川と結んだ契約は4年推定総額12億円プラス出来高払い(推定)だ。

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