インスタは「願望を映すもの」

 そういう意味ではほぼすべての女が相談者さんと同じように、誰か近しい人、あるいは全然遠い人、背伸びすれば届きそうな気もする人、何をしても到底かなわなそうな人など色んなタイプの、もしかしたら私だったかもしれない誰かのキラキラをまぶしく思いながら生きているのだと思います。もしかしたらあなたの友人も、勉強や仕事に明け暮れて、青春の狂騒を味わえなかった若い自分に後悔があるかもしれません。キャバクラで男性の注目を集めて女として評価される快楽を一度味わってみたかったかもしれません。そういう小さな未練を噛みしめて、今日も経営に勤しんでいる可能性だってあります。

 そういう風に生きるのもまた女の味わいだと思うしかない。これは一つの事実ではあると思います。ただし、インスタというのは基本的に現実を切り取る作用はなく、投稿者の「こうありたい姿」への願望を映すものだとも言えるので、幸福そうに見える姿、キラキラしてかっこいい姿、美しく華やかな姿は、そのように見せようと演出されたものだと個人的には思っています。

 それは単純に、もう少し目が大きいといいなという人が写真を加工するようなものから、こういう生き方のように見られたいなという願望がどこかしらに見え隠れするさりげないものまで色々あるはずです。女の人生はままならないものですし、お金以外すべてある人はお金を、美貌以外すべてある人は美貌を、学歴や家柄以外すべてを手に入れたら学歴や家柄を欲して生きるそれぞれが、自分の人生を最大限キラっと見せるための演出をして、なんとか自分の選択を肯定しようと足掻いているのだとすれば、また見え方が違ってきませんか。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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