ダブルミーニングで「島唄」は作詞作曲した
「島唄」は、サトウキビ(ウージ)畑での男女の出会いと別れを描いているが、歌詞一語一語には沖縄戦で不条理な犠牲を強いられた人々に対する哀しみと、沖縄全体を捨て石にした怒りを織り込んだ。その象徴的なパートがここだ。
〈ウージの森であなたと出会い ウージの下で千代にさよなら〉
宮沢は、この歌詞に「ウージの森(ガマの上)で出会った幼馴染(おさななじ)み同士がなぜウージの下(ガマの中)で互いに殺し合わなければならなかったのか」と疑問を込めた。生い茂るサトウキビの下にはガマ(壕(ごう))があり、そこで起こった住民の「集団自決」を念頭に置いた歌詞だった。
また、他が三線や琉球音階で作られているのに対し、このパートだけは、西洋音階で作った。押し付けられた戦争で死へと追いつめられた沖縄の人たちのことを思うと、沖縄の音階は使えないと考えたのだ。
ダブルミーニングで作られたこの曲は、「表」で聴くと、嵐の前の風景が思い浮かぶが、「裏」の意味は沖縄戦の犠牲者への鎮魂歌であり、沖縄の恒久的な平和を祈る歌に姿を変える。
「ダブルミーニングにしたことは、公にはしたくはなかったんです。とくに発売してから10年後までは絶対に言わないと決めていました。自分で言ってしまってはダブルミーニングにした意味がなくなってしまうし、クリエーターとしてはネタばれというか、敗北みたいなものですから。でも、各地の学校で沖縄戦の話をする機会が増えてきた時、真の意味を語ると、沖縄の歴史が伝わりやすいことが分かりました。それで語らないといけないな、と思うようになったのですが」
こうして「島唄」は完成したが、ダブルミーニングとはいえ、沖縄に縁もゆかりもないヤマトの人間に、三線を持って戦争のことを歌うことが許されるのだろうかという懸念や不安が、発売する段になって芽生えてきた。