
休筆したことをきっかけに、それまでヤバいとは言いながら具体的なことは隠していたものを、全部発信するようになりました。
過酷なスケジュール、教えてもらえない“出版界の流儀”……。新人作家として直面した戸惑いとは?
三宅:『人間みたいに生きている』は3作目の書籍です。新人作家としてデビューされた当初に、直面していた戸惑いはどんなものがありましたか。
佐原:デビュー当初はそもそも全体の流れが分からなかったことが一番辛かったです。作品を書いた後どういうスケジュールでどうなるか全く分からなくって。とにかく編集者に言われる通りのスケジュールで進めながらも、出版業界って結構ヤバいんだなと驚いていました。きついスケジュールだったことには、色んな事情があったからだろうなと、今は想像しますが。
新人作家で何も分かっていないときだと、返事がこないのは私がこんなダメな初稿を書いてしまったからだ……と思っちゃうんですよね。だから、私が今新しくデビューされた作家に繰り返し言っているのは、担当編集から返事がなくとも、あなたの原稿が悪いというわけじゃなくて、単純に忙しくて返せていないだけ。だから、そこで自信を失う必要は全くないってことです。大丈夫だから!って。
編集者によって流儀が全く違うというのも戸惑いの原因でした。例えば最初に渡す原稿についても、締め切りを若干遅れてもいいからクオリティの高いものがほしいという方と、クオリティは7、8割でもいいけれどともかく締め切りに間に合って渡してほしいという方もいる。そういう流儀の違いは最初に言ってほしいのに、大抵は原稿を渡す段階で言われるから混乱してしまう。
三宅:普通の会社だったら、取引先に後出しでルールを言うって変ですよね。
佐原:「普通の会社だったらこうだ」という考え方が通じないんですよね。お金のことに関しても、「新人作家が原稿料のことを言うのは引きますね」と編集者に言われたことがあって。原稿料を尋ねたのは作家業を始めたばかりのときだったから、お金のことは聞いちゃいけないんだ、出版界の流儀があるんだって委縮しちゃいました。