『人間みたいに生きている』。その印象的なタイトルと生きづらさを丁寧にすくい取った物語は、多くの読者から支持され続け、刊行1年半が経った今でも重版を重ね、ついに7刷となった(2024年4月時点)。執筆者の佐原ひかりさんは、現役の非正規図書館司書でもある兼業作家だ。もともと小説家を目指していたのではなく、どうすれば司書を続けられるか考えた末に、文学賞に応募。その経緯は記事にもなり、話題となった。
デビューから3年目。連載4本を抱える人気作家となった佐原さんだが、その過酷な仕事量から体調を崩し、23年には4月から5月までの2カ月、作家業を休んでいた。デビュー当初に新人作家としてぶつかった困難から兼業作家の過酷な労働環境、さらにそこで気づいた「手を差し伸べてもらえるSOSの出し方」を、自身も書評家と会社員の兼業経験がある三宅香帆さんに語った。
「2カ月間執筆を止めることになりました。」デビュー3年目の“休筆宣言”
三宅香帆(以下、三宅):佐原ひかりさんは、デビュー3年目の2023年に2カ月間作家業を休むことを宣言されました。その経緯を伺えますか。
佐原ひかり(以下、佐原):仕事が山積みになっていて極限状態にあったときに、今身体のどこにどんな症状が出ていて何科に通っていて、というところまでダダ書きしてX(旧Twitter)でポストしていて(笑)、そのヤバさが客観的に見て伝わったのか、先輩作家お二人が大丈夫?今どんな感じ?って連絡をくださったんです。それで当時の状況をバーっと書き出して送ったら、「それはもう本当に危険な状態だから今すぐ対処したほうがいいよ」と助言をしてくれた。それで休筆できました。
後になって、当時のことをその先輩作家お二人と話したときに、佐原さんは手を差し伸べやすかった、救いやすそうだったと言われました。
三宅:SOSの出し方が上手だったということでしょうか。
佐原:例えば、「今この状況がヤバいのは、自分が愚図なせいだから、頑張るしかないよね。頑張る!」みたいに、ひとつのポストのなかで自分で答えを用意してしまっているメッセージだと、この人にたとえ「そんなことないよ」って言ったとしても響かないんじゃないかって思われてしまうんですよね。自分のせいにし過ぎていないメッセージを発信するということが重要なのかもしれません。
三宅:普通の会社でも、「とにかくヤバそうです」ということを共有してくれたほうが、手の出しようがありますよね。