佐原ひかりさんXポストより
佐原ひかりさんXポストより

三宅:兼業で作家をされていますが、その後労働環境は良くなりましたか?

佐原:休筆した後、出版社の要求を全て呑む必要はなく、もっと主体性を持っていいということを編集者に言われて、新しい作品の動き出しに時間を頂いてスケジュールを調整できるようになりました。

 でも兼業で作家をしている以上、どうしてもできないこともあって。例えば金曜日に連絡が来て、月曜日までに返してくださいというようなスケジュールは、土日に予定があったら対応できなかったり、郵送物の配達が平日昼に届いて受け取れず、その受け取りにかかった一日のズレが致命的だったり。

できない自分とどう生きていくか。『人間みたいに生きている』に込めた思い

三宅:兼業で仕事をしている人は孤独になりやすいと感じます。業務量を把握している人は自分しかいないし、労働環境が悪くても人に相談できない。

佐原:そもそも自分が抱えている問題に気が付くことができない、自分が何に困っているかが分からない、言語化できないという問題もありますよね。

三宅:小説『人間みたいに生きている』でも、嫌なことを嫌と伝える、SOSを出すのが大事ということを書かれていましたね。執筆されてから日が経っていますが、本作を振り返って印象の変化はございますか。

佐原:執筆当時は、「身体と食のこと」を書いたなと思っていたけれど、今読み返すと、すごく「大人と子供のこと」を書いているなと思います。

 高校生の主人公・唯(ゆい)は、食べる行為そのものに嫌悪感を覚える身体を抱えながら生きていて、同じく食べられない身体に苦しんでいる泉という大人の男性に出会い、彼が住む洋館に初めて安心できる居場所を見出す。でも、同じ悩みを抱えている二人の間には勾配があるんですよね。泉は大人で、お金もあって住むところもある。唯はまだ自立もできない年齢で、行き場もなくて。ラストシーンで、泉に会う場所は<ここじゃなくて、いい>と、唯が洋館以外でも泉に会いたいと伝えたことで、絶対的な差のある二人から脱する方向に行けたように、読み返していて思います。泉の住む洋館は二人にとってはシェルターでありながら二人の差を固定化させてしまう場でもあったから。

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