「社内コミュニケーションは、“ミッションを実現する組織にしていくために必要なコミュニケーションすべて”ととらえています。オンライン・オフライン、業務内・外など多角的なアプローチを大切にしています」(山王さん)

 社内コミュニケーションを「企業としての心臓部」だと語るのは、京都市に本拠を置く分析・計測機器大手、堀場製作所のジュニアコーポレートオフィサー(理事)、森口真希さん(50)。

「我が社はものづくりの企業として、人と人との対話の中からアイデアを生み出していくことを創業当時から大切にしてきました。公式、非公式のあらゆる集まりがタテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーションを生み、それが有機的に結びついて仕事に生かされる企業文化があるんです。コロナ禍を経て効率化できる部分はオンラインを取り入れるなどの変化もありましたが、顔を合わせる場は以前と同じように大切にしています」

それぞれのスタイルで

 同社が公式に催すユニークな施策として、「誕生会」が知られる。堀場厚会長ら役員がホスト役となり、その月に誕生日を迎える一般社員が招かれる会だ。管理職は参加せず、新入社員でも、役員とグラスを傾けながら自由に会話できる場だという。現場の社員にとっては少なくとも1年に1度トップと直接話ができるチャンスであり、役員にとっても現場の社員が感じていることを一人ひとりの顔を見ながら直接知る機会になっている。参加は任意だが、毎回対象者のほとんどが出席してきた。コロナ禍に見舞われた20年3月から22年4月までは休止を余儀なくされたが、22年5月から段階的に再開し、現在は従来と同様のスタイルで実施している。

 かつては一般社員として、そして今は役員側で誕生会に参加する森口さんはこう話す。

「誕生会で話した社員の顔や個性って、覚えているんです。社内で会っても『あのときのあの人だな』とすぐにわかる。データや会議とは違う印象で、肌感覚として社員のことを知れる、とてもいい機会になっています」

 バーベキュー大会や運動会のような社で実施してきたイベントも、ほとんどがコロナ禍前と同様の状況に戻っているという。

 一方で、コロナ禍を経ての変化もあった。人財戦略室長の朝岡大輔さん(49)が言う。

「飲み会のような場に少し身構える若手社員は、コロナ禍を経て確かに増えたと思います。ただ、それは決してコミュニケーションを取ること自体が嫌いなわけではなく、それぞれのスタイルと言えるでしょう。そうした個性や好みに配慮し、多様性を生かしながら研修やその後の懇親会を設計していくことに、より気を配るようになりました」

 働き方や社会状況が変わっても、社内コミュニケーションが持つ意味や必然性は変わらないのだ。(編集部・川口穣)

AERA 2024年4月15日号より抜粋

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