人類の最高峰を争う名人戦七番勝負が佳境を迎える5月。杉村達也ら開発者たちは、世界コンピュータ将棋選手権という舞台でしのぎを削る(撮影/高野楓菜)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。36人目は番外編で、コンピュータ将棋開発者・杉村達也さんです。AERA 2024年4月8日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。

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 コンピュータ将棋開発者は圧倒的に理系が多い。一方で杉村達也の本業は弁護士だ。そういう人は相当レア?

「いやそれがですね(笑)。私より前に出村洋介さんという弁護士の方がおられまして。司法試験に受かったあとで『技巧』という素晴らしいソフトを開発されています。2016年の世界コンピュータ将棋選手権は技巧が準優勝、Ponanzaが優勝で、そのときは本当に盛り上がったそうです」

 Ponanzaは山本一成が東京大学在学中に開発を始めたソフトで、2013年、電王戦という公開の舞台において、初めて現役の棋士を破った。2010年代なかばには最強のソフトとなり、17年、人間界の頂点に君臨する佐藤天彦名人(叡王)まで下した。

「将棋の強さを測る際に、レーティングという、実力差を数学的に表す指標が使われることがあります。当時のレーティングを計算すると、大体Ponanzaと人間のトップは400点以上の差がありそうです。勝率は400点差だと90%、800点差だと99%ぐらい。そのPonanzaに対して、現在のコンピュータ将棋のトップは1200点ぐらい強いんです。勝率にして99.9%ぐらい。当時のPonanzaに勝てなかった人類が、現在のコンピュータ将棋に勝てるかというと、ちょっと厳しいでしょうね」

 コンピュータの実力は頭打ちにならず、青天井で強くなっていく?

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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