「何年か前にある開発者の方が『将棋の神様のレーティングはこれぐらいだろう』と示されていた数字が5千点弱でした。しかし実はもうそこにも到達してしまったんです。それでもまだ将棋の結論に辿り着くようなレベルではない。『将棋の神様』は2万点とか3万点とかでもおかしくないぐらいの強さなんでしょう」
将棋のような「二人零和有限確定完全情報ゲーム」では、先手勝ち、後手勝ち、引き分けのいずれかが結論になる。将棋の結論はどうなる?
「持将棋のルール次第だと思います」
将棋には「千日手」と「持将棋」という引き分けがある。互いの玉が相手陣に入り込んでつかまらない相入玉になると、駒数で判断して終局する。コンピュータの競技会では持将棋なしの27点法。棋士の公式戦では持将棋ありの24点法が採用されている。
「コンピュータ同士の先手勝率は、かつては5割に近いものでした。しかしいまはもう7割を超えていて、先手の方が圧倒的に分がいい。これから先も、先手必勝の方に近づいていくと思います。一方、24点法では、もしかしたら引き分けが結論になるのかもしれません。伊藤匠七段が『棋王戦第1局などにおける持将棋定跡』で升田幸三賞を受賞されました。後手番で勝つ姿勢を見せつつ、相入玉を含みにした構想が本当に素晴らしかった。27点法だったらおそらく先手が勝つんだけれども、駒損を3点以内に収める24点法だったら引き分けに持ち込めるかもしれない、というのがすごいんです。これまでは千日手という、双方打開できない手順で引き分けを目指すことはあっても、持将棋をねらうという発想はなかった。勝ちではないですけれど、定跡を大きく一歩進めました。藤井聡太八冠も以前、インタビューで、結論としては引き分けになる可能性が高いと思う、という趣旨のことを言われていました。私もそう思います」
(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2024年4月15日号