都内でラブホテルを経営している知人が、昼間のラブホは男性会社員によるデリヘル利用率がとても高いと教えてくれたことを思い出す。「あたりまえに、買う」「整体マッサージと同じ感覚で、買う」「おつきあいで、買う」「暇だから、買う」「ストレス発散で、買う」というような習慣が、この国の男性社会にはある(先の調査によれば40代男性の買春率は6割近い)。今、女性向け性風俗が全国に広まっているのも、「セックスを買う」のが「あたりまえ」な空気が生みだした日本特異の現象だろう。

 セックスを買うのは問題なのか? 問題だとしたらなぜなのか? 

 今の日本は、そんなことを真面目に議論する社会になっていない。森嶋さんによれば、物欲と肉欲の比重バランスが失われた社会では、「(2050年の日本人=1990年代に子供・若者だった人たちは)倫理上の価値や理想、また社会的な義務について語ることに対しては、たとえ抽象的な論理的訓練としてでさえ、何の興味も持たないのである」……と。たしかに今の日本、「倫理」、特に「性の倫理」などを語ることすら嘲笑の対象になるような空気……ありますよね。

 先週末のこと。旅先で小さな食堂に入ると、テレビがついていて、ちょうどお笑い番組をやっていた。人気の芸人だという男性2人組が「ストーカー」をネタにしたコントをしていた。……夜、女性が寝ているとサイレンの音が近づき、消防士の声が聞こえ、マンションが火事になっていることが告げられる。するとベッドの下に隠れているストーカーの男が慌てて出てきて、女性が悲鳴をあげる。しだいに煙が充満し煙から身を守ろうと、男が盗んでいた女性の下着で2人が口を塞ぐ。女性は終始ギャーギャーと騒ぎ続ける……。そんな内容のコントだった。

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「性の倫理」真摯な議論を避けた大人たち