受動喫煙というのはあるが、受動テレビという被害もあるのだと知る。テレビの中が大きな笑いに包まれているのを観ながら、目の前の景色が灰色になった。お笑いが品行方正である必要はないと、私は思う。それでも、「女がキャーキャーと怖がり嫌がる姿」が娯楽になる2024年に、言葉を失うしかない。ストーカー被害で女性がどれだけ殺されようとも、下着を盗まれる気持ち悪さに絶望をしていようとも、それは「笑いのネタ」になると考えられ、それがフツーに放送される社会を私たちは生きているのだ。ああいやだいやだ……とテレビから耳を塞ぐように、手元のスマホをいじることにしたら、今度はすぐに大手アダルトビデオメーカーSODクリエイトが、“小学生”の娘を父親が性虐待する「作品」を販売開始していることが話題になっていた……。

 森嶋先生。この国は、2050年を待たずに、もうとっくに没落しているようです。

 バイブを売っている私が「性の倫理」などということを真面目に言うこと自体が、おかしなことかもしれない。それでも、性についての真摯な議論を避け、倫理という抽象的なテーマを議論する訓練も受けずに育ったこの国の多くの大人たちがつくりあげた社会は、もう後戻りできないほどの勢いで、溶け、没落している。その現実に立つところから、では、私たちは何をこれから語るべきなのだろう。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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