安倍元首相は「アベノリンリ」以外にも大きな負の遺産を残した。岸田首相がこれだけ支持率が下がってもなお強気なのは、そのおかげである。

 その遺産とは、筆者が「馬鹿な国民哲学」と名付けた国民を見下す政治哲学だ。

 これだけ国民にそっぽを向かれながら、驚くことに岸田首相は今なお解散総選挙を夢見ているらしい。その考えを支えるのが、「国民は馬鹿だから、どんなに怒っていても時間が経てば忘れる」「そのためには他のことで気をそらせば良い」という、安倍元首相の「馬鹿な国民哲学」だ。

 4月の国賓級待遇での訪米でバイデン大統領との蜜月ぶりをアピールし、5月のゴールデンウィークで国民の雰囲気が明るくなるのを待つ。6月からの定額減税実施で庶民の懐が温まり、7月の夏休み入りとパリ五輪開幕での日本選手の活躍で明るい話題がテレビとネットに溢れる。8月には6月の賃金の統計が発表されて「実質賃金大幅上昇!」となり、お盆休みを迎える。そこまで来れば、国民の大多数は裏金問題など忘れるから、9月初めに臨時国会を召集して冒頭解散すれば良いというわけだ。

 日本維新の会は自民と戦うよりも立憲民主党叩きに熱心で、野党分裂選挙の可能性が高く、自民大負けは防げる可能性はあるという読みだ。そうなれば、その後の総裁選では、選挙の顔を選ぶ必要性は薄れ、大物国会議員たちの談合により自己の総裁再選も可能だという希望に賭けているのだろう。

 繰り返しになるが、こんな夢物語を支えているのが、安倍氏譲りの「馬鹿な国民哲学」であることを忘れてはならない。

 岸田首相を強気にさせるもう一つの重要な要素が「弱い野党」だ。これも実は、安倍元首相が残した遺産である。

 自民党の支持率が下がっても野党の支持率はさほど上がらない。その原因は、「悪夢の民主党政権」という安倍元首相が好んで使った「レッテル貼り」にある。民主党政権の運営にはいくつかの問題はあったが、「失われた30年」で日本経済を根底から弱体化させ、集団的自衛権の行使容認などの憲法違反の政策を強行した自民党と比べれば、はるかにましな結果を残した。しかも、民主党政権にとって最大の障害となった福島第一原発事故の原因は、安全対策を怠り原発推進政策を続けた自民党にあった。

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