僕が繰り返し言う「コミュニケイションが得意な人は、『誰とでも簡単に友達になれる人』のことではなく、『ものごとがもめた時になんとかできる人』のことである」ということです。

 でね、アイさん。「嫌なことを嫌と言う」のが「仕事の現場」というのは、一番ハードルが高いです。

 アイさんは、いきなり、一番難しいことに挑戦しようとしているんじゃないかと僕は思うのです。

 もっと簡単なレベルから「自分の気持ちを正直に言う」「嫌なことを嫌と言う」「相手の機嫌が悪くなっても気にしない」ということに慣れていくことが重要だと僕は思っています。

 つまり、「パスタ食べよう」と言われても「ごめん。私、カレー食べたいから」と断り、「コンビニ行こう」と言われても「私はいいわ」と断り、「週末、遊びに行かない?」と言われても「予定があるんです」と断る、なんていう「自分の都合」をささいなレベルでコツコツと言い続けていくことで、アイさんの「思っていることを口に出す」というハードルが下がっていくと思うのです。

 それは同時に「押せばなんとかなる人」というイメージを変えることにもなります。

 もちろん、日常の小さな誘いやお願いを断ると、それだけでも、ゴツゴツと「角が立つ」なんてことが起こるでしょう。その中で、「あ、こんな言い方は、余計に怒らせるな」とか「お、この言い方はいいね」とか、きっとアイさんは発見していくと思います。

「怒鳴る父親」に対しては、どんな言い方を選んでもムダでしたが、アイさんが日常で接する人達は、「言い方ひとつ」「言葉の選び方ひとつ」「表情ひとつ」で、ずいぶん結果は変わるでしょう。

 えっ? それは理屈では分かるけれど、難しいと思う?

 はい。アイさんの希望がそもそも、ハードルが高いのだと僕は思います。

「ただ我慢するのではなく、喧嘩するのでもなく、その場で自分の意見を冷静に伝えられるようになりたい」がアイさんの希望です。

 気持ちはよく分かりますが、これはとても難しいです。

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「我慢」と「喧嘩」と「冷静」の適切な割合を見つける道とは?