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本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】
 アイさん。大変ですね。前の職場も、ある日キレて退職してしまいましたか。つらいですね。

 でも、アイさんはじつに的確に自己分析をしていると思いますよ。

「父親が頻繁に怒鳴る家庭で育ったため」というのは、なるほどと納得しました。

 今回の職場は、上司が父親と同じように「言いなりにならないと怒鳴る人」ですから、余計、苦労するんだと思います。

 でね、アイさん。質問ですが、アイさんは、主に仕事の時に「相手を不機嫌にさせてはいけない」「怒らせてはいけない」と思っていますか?

 それとも、仕事だけではなく、生活全般で人に対してそう思っていますか?

 例えば、ランチは一人でカレーを食べたいなと思っているのに、何人かにパスタに誘われると気をつかって食べに行くとか、コンビニに行こうと言われたら、そんなに行きたくなくてもOKする、なんてことですね。

 どうですか? 勝手に想像すると、アイさんは、日常生活の小さなことから「相手を不機嫌にさせてはいけない」と思って、気をつかっているんじゃないですか?

 仕事も、上司だけじゃなくて、同僚や部下からでも、「頼まれたらなかなか嫌と言えない」とか「なんとなく引き受けてしまう」状態なんじゃないですか?

 アイさんの相談を、僕は、「怒りをコントロールする重要性」よりは、「自分の気持ちを口に出すことの重要性」だと感じます。

 つまりね、アイさん。どんな人でも、ずっと自分の言いたいことを我慢して、耐えて堪えてきたら、キレたり、爆発したりするのは当り前じゃないかと、僕は思っているのです。

「自分の思っていることを正直に話す」というのは、じつはハードルが高いです。

 特に、アイさんのように「怒鳴る父親」に育てられなくても、「『人の迷惑にならないことが一番重要』と言い続けた母親」に育てられた人とか、「友達が多いことが無条件でいいこと」だと思い込まされた人とか、「陽気で明るいこと」を常に求められた人にとって、「嫌なことを嫌と言う」というのは、とても難しいことです。

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もっと簡単なレベルから慣れていくことが重要