「渋谷でバックパッカーに話しかけられたのですが、一言も返せなかったんです。最初は何もできなかった絶望感が強かった。でも次第に、英語ができれば楽しく会話できたはずとワクワクしてきて、書店に直行しました」

 立てた目標はなんと、「日本一英語ができる人になる」。現実的には難しいが、本気で空き時間のほとんどを英語学習につぎ込むようになった。

 生活のなかで「英語で言いたい」と感じたフレーズをノートに書きとめ、自作のフレーズ集をつくった。一つ覚えるたび、自分の英語表現が広がっていくようで楽しかったという。1年ほどで「言いたいこと」はかなり自由に言えるようになった。ただ、長文で意見を言うことは難しい。それからは、読み書きも含めた4技能にまんべんなく取り組むようになる。

音読学習が役立った

 初めてTOEICを受験したのは3年ほどたったころ。スピーキング力がついて英語で話す機会が増えると、スコアをよく聞かれるようになったという。ならば、と受験した初回は600点。それからも特にTOEICに特化した勉強はしなかったが、聞く力、読む力を強化すると5年でスコアは870点にまで伸びた。役立ったと感じるのは音読学習だという。

「声に出して読んで、頭と体に染みこませる練習はずっと続けました。スクリプトのセリフに感情をこめて読むなど、1カ月ごとにテーマや目標を決めて取り組んでいましたね」

 800点台後半に届いてからはTOEICに特化した勉強も始め、17年に満点。英語学習コンサルタントとしてGaribenの設計のほか、7年にわたって楽天で英語指導を担うなど延べ2万人以上に英語を教えてきた。

 Garibenのコンセプトであるグループコーチングの根底にも自身の経験がある。セレンさん自身は900点を超えるまで、ほぼ独学で英語に取り組んだ。一方、満点を目指す過程では同じ目標を持つ人と勉強会などを開いていたという。

「仲間が近くにいると心が折れそうなときに頼れたり、逆に競争心をかき立てられたり、メリットがたくさんありました。Garibenでもそうした関係性を大切にしています」

(編集部・川口穣)

AERA 2024年3月4日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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