1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した、米国の政治学者のフランシス・フクヤマ氏。大統領選を控える今、アメリカの人びとのなかには「リベラリズムへの不満」がうずまいている。その理由の分析を披露した2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。
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――ロシアが権威主義的な伝統に回帰し、プーチン大統領が自由主義に対して攻撃を仕掛けるのは驚きではありません。私にとって驚きだったのは、民主主義国家の人々からも自由主義に対する不満が大きくなった点です。あなたの最近の著作『リベラリズムへの不満』では、この重要な点を詳細に論じています。その細部を伺う前に、あなたにとって「リベラリズムとは何か」を教えていただけますか。これはとても大事だと思いますが、混乱した概念でもあります。
フランシス・フクヤマ:リベラリズムは、国によって捉え方が違います。米国ではリベラルとは「真ん中から左」のことを意味します。欧州では「真ん中から右」を意味しています。そしてその特徴としては、自由な市場経済を信奉している点が挙げられます。
しかし、私の定義はそのどちらでもありません。というのも、経済的な定義は正しいとは思えないからです。