書類には必ず日付を入れたい(※写真はイメージです Getty Images)

 身体だけでなく、記憶にも影響を及ぼす「老い」。忘れてしまうことや、勘違いしてしまうこともあるが、そうしたトラブルを減らすために東京大学名誉教授で失敗学の提唱者・畑村洋太郎氏は、先輩教授からある方法を聞いたという。畑村氏の新著『老いの失敗学 80歳からの人生をそれなりに楽しむ』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編して紹介する。

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脳を動かすためにいまでもやっていること

 記憶の減衰で困るのはやはり、「なかったこと」にすることです。嫌な記憶は忘れたほうがいいので、本人はそれで一向に構いません。しかし、まわりはちゃんと覚えているので、なかったことにすると齟齬が生じて困ったことになります。

 私の場合も最近、まわりが「以前こんなことを言っていた」というのを、自分では覚えていないことが増えました。内容を詳しく聞いてみると、いかにも自分が言いそうで、「そんなことを言っていたんだ」と納得しています。仕事で付き合いのある人からの指摘なので、ものの見方や考え方に関することが多く、忘れていてもとくに大きな問題になることはないと考えています。多くの議論を重ねながらつくってきたものなので、骨子となる考え方はぶれることなく一貫しているという自信があるからです。

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畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

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