「今からみなさんには結婚をしてもらいます」。高校時代、家庭科の授業でそれは宣言された――。SNSで公開されたエッセイスト・潮井エムコさんのコラム「学生結婚と子育て」は、またたく間に拡散され、新聞各紙からもインタビューを受けるほどの大反響を呼んだ。多くの人の胸を打ったちょっと変わった家庭科の授業とは? 2024年1月19日に発売された初の著書『置かれた場所であばれたい』から、こちらの一編をお届けする。
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学生結婚と子育て
生来の怠け者である私にとって、大嫌いな数学や英語、古典といった勉強から逃れられる副教科は、学校生活において最高の気分転換だった。
高校は芸術を専門に勉強するコースに進学したので、副教科のほとんどは美術で占められていた。そのため、高校3年生にしてようやく始まった家庭科の授業は、私たちにとっては新鮮そのものであり、クラス中が楽しみにしていた。
家庭科の先生は笑顔のかわいい温和な女性で、私は彼女のことをすぐ好きになった。
家庭科室に集められた私たちに先生は言った。
「今からみなさんには結婚をしてもらいます」
みなが口を開けぽかんとしている様子を楽しみながら彼女は続けた。
「クラスでこの人となら添い遂げられる、という人を見つけパートナーになってください。パートナーが見つかったら私のところに来てください」
思春期真っ只中の我々になんということを言い出すのだこの人は。通常ならキャーと黄色い声を上げ、誰と結婚しようかという話題で色めき立つところだろうが、私のクラスは9割が女子だったので、各自パートナーはすんなりと見つかった。
私の相手は同じ陶芸部の女友だちだった。名をマミとする。マミは頭脳明晰で私情に流されない冷静な女で、部活では先生と部員の満場一致で部長に任命されるほど、周囲からの信頼も厚かった。
夫婦とは足りない力を補い合うもの。脳みそで思考する前に行動に移してしまう衝動性の塊のような私のパートナーは彼女しかいないと狙いを定めた。