マミから大介を受け取ろうとした私は手を滑らせ、牛乳パックごと地面に落としてしまった。バシャ、と声のない悲鳴が聞こえた。
「大介!」
私が牛乳パックを退けると、彼が手遅れなのは一目でわかった。取り乱したマミの、大介の安否を尋ねる声が聞こえる。私は「見ないほうがいい」とだけ告げ、大介だったものを手に取り泣いた。
1週間が経ち、私たちは再び家庭科室に集められた。クラスの20組近い夫婦のうち、我が子を守り抜いたカップルは半数を切っていた。
先生は言う。
「子育てというものはみんなの想像を絶するほど大変です。どんなに気をつけても事故や怪我が起きる。みんなのご家族もそうやって神経をすり減らしながら、あなたたちを育ててきたんですよ」
我が子を自分の不注意で亡くしてしまった私は、先生の言わんとすることが痛いほどわかった。
「先生」
我が子を守り抜いた友人が手を挙げた。
「これからこの子たちはどうなるんですか」
我が子をぎゅっと抱き締めながら彼女は尋ねた。
「ホットケーキにして食べましょう」
笑顔で返す先生にクラスの全員が言葉を失った。地獄の調理実習のスタートである。守り抜いた者たちは嫌だ嫌だと涙を流しながら我が子を割り、失った者たちは先生に新しい生卵をもらってそれぞれホットケーキを作った。もうこの世にいない大介を偲びながら食べたホットケーキは、甘くてちょっぴりほろ苦かった。忘れられない青春の思い出である。
思い返せば私の10代までの思い出は、この時のホットケーキのように、一口では語ることのできない不調和な刺激で満ちていたかもしれない。