原辰徳監督から“神様”と呼ばれた最強の代打の切り札が、矢野謙次だ。
07年5月31日のソフトバンク戦、0対3の7回1死満塁、原監督は代打・清水隆行を告げたが、ソフトバンク・王貞治監督が左対左で篠原貴行をぶつけてくると、代打の代打に矢野を指名した。
「自分の打撃をするだけ」と割り切って打席に立った矢野は、1ボールからの2球目、外角寄りの直球をフルスイングし、左翼席中段に起死回生の逆転満塁本塁打。代打の代打による逆転満塁弾は球団史上初の快挙だった。
「こういう力のある選手がベンチにいることが大きい」と原監督も絶賛した“代打の神様”は、6月11日の日本ハム戦でも8回に代打決勝ソロを放ち、1対0の勝利に貢献。代打アーチによる1対0の勝利も球団史上2人目の珍記録だった。
さらに10年には、12球団トップの代打成功率.524をマークするなど、無類の勝負強さを売りに、日本ハム時代も含めて16年の現役生活をまっとうした。(文・久保田龍雄)
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。