藤原隆能 著 ほか『源氏物語絵巻』徳川美術館、 国立国会図書館デジタルコレクション
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源氏物語』が織り成す王朝の雅を象徴する人物、紫式部。彼女については『源氏物語』と表裏一体の関係で論ぜられてきたが、歴史学者・関幸彦氏は、ロマン的要素とは別に、宮廷世界のドライな現実についても目を向け、一方で王朝の女房たちの“女子力”にも注目している。「言わずもがなではあるが、摂関政治を根底で規定したのは、その“女子力”だった。」と関氏は言う。一条天皇の後宮に出仕した彼女たちの存在は、后妃たちにとって知的装置となっており、とりわけ“男女の仲”について伝授する役割を担っていた。同氏の新著『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、女房たちの役割について詳しく紹介する。

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 平安後期の王朝期は「女房」を輩出し、“才女の季節”ともいうべき時代を現出させた。紫式部が、清少納言が、そして和泉式部もいた。著名な藤原定家による『百人一首』にも、彼女たちの歌が見えている。そこでは女房たちの群像とも呼び得る世界が見える。「56番」から「62番」の歌だ。

 ちなみに紫式部の「めぐり逢ひて~」で始まる歌は、57番に位置する。意図的ではない配列、単に時間的な流れでの『百人一首』の配列に、偶然が織り成す時代の本質が滲み出ている。彼女たちも、王朝の語感を共有した女房たちであり、一条天皇の後宮に出仕した彼女らの存在と役割は小さくなかった。

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女房達は天子のための知的な装置