自分に対して「傾聴・受容・共感」を
では、実際に親のショッキングな行為に出合ったときにはどうしたらいいでしょうか。
認知症の人に対して、「話を聴く(傾聴)、否定しない・受け入れる(受容・共感)、ほめる」ことが基本姿勢だとされています。しかしこれは他人だからできること。子どもであるあなたには難しい相談です。
そこで私は、次のように提案しています。「自分自身に対して(これらの基本姿勢を)やってみましょう」と。
たとえば、トイレの失敗が重なるようになった母親が、汚れた下着をたんすの中にかくすようになり、何度注意しても繰り返しています。今日もまた、汚れた下着を見つけたあなたは、つい「何回言ったらやめてくれるの? ほかのきれいな下着も汚れちゃうじゃない!」と責めてしまいました。
このとき、腹を立ててもかまいませんが、おかあさんに恥をかかせないようにします。汚した下着は黙って洗濯します。まず「私が腹を立てたのはなぜ?」と、自分の気持ちを聴きます。そして「当然だよね、せっかく洗濯してきれいにしているのに、汚れた下着をたんすに入れるなんて」と肯定し、「おかあさんがこんなことするなんて、信じられない。驚くし、怒っちゃう、それでいいんだよ、叱りつけるのを我慢した私はえらい!」と受け入れる・ほめるにつなげます。
これは自分を客観視する方法です。習慣化し、ほかの場面に遭遇したときも、この手順から入る、つまり形から入ることで、自分自身の高ぶった気持ちや嫌悪感などから、距離を置くことができます。そして、腹が立った気持ちは家族やヘルパーなど、話しやすい人に話を聞いてもらうことも大切です。
おびやかされている生活習慣を取り戻す
いま、介護真っ最中の人にはぜひ、身内には優しくなれないということを学びにしてもらいたいと思います。あなたがカリカリしているのは、親を粗末にしているのではなく、あなたの生活習慣や生活をおびやかされているからです。
そのうえで、親に日常的にかかわるなかで、「傾聴・受容・共感・ほめる」を自分自身に対しておこなってください。