どんなに親思いの子どもでも、認知症を発症した親の介護の難しさ、大変さは特別です。親に向かって「しっかりしてよ!」とつい声を荒らげてしまったことがある人は多いでしょう。「優しくできなくて当たり前」と、介護アドバイザーの髙口光子さんは言います。では、どのように認知症の親に向き合えばいいのでしょうか。
【図版】「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違いは?
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深い人間関係ゆえに、認知症の親に優しくはできない
認知症を発症した親にどう向き合えばいいか。
結論から言うと、「身内の介護は優しくできない。優しくできなくて当たり前」です。
親子のあいだには、これまでに積み上げた、何十年にも及ぶ深く強い人間関係があります。親はあなたに最も大きく影響を及ぼした人の一人で、あなたの社会性や人間性の一部です。尊敬もし、人生のお手本にもし、年老いてからだが弱ってからは愛情をもって見守ってきた存在です。
そんな親が、とんでもない行動をしているのです。あんなにきれい好きで、家事を完璧にこなして家を守ることを教えてくれたおかあさんが、台所の片づけができず、入浴もせずに何日も同じ洋服でいる。あんなに社会的にも認められ、私たちを立派に育ててくれたおとうさんが、夜中に大声で「鳩ぽっぽ」を歌っているなんて。
子どもであるあなたは驚き、信じられずに怒りすら覚え、「こんなの、おかあさんじゃない、おとうさんのはずがない」と親を否定する気持ちで苦しくなります。
他人の介護は優しくできる
もう一つの事実として、「他人の介護は優しくできる」ということがあります。
他人である私たち介護職とサービスを受ける高齢者には、積み重ねた時間も、深い人間関係もありません。サービス提供を依頼されたそのときが初対面です。出会ったときにはすでに80代、90代。出会ったときにはすでに認知症。目の前にいる、「ご飯を食べてない!」と叫ぶ人を、受け入れ難いほど大きく変わってしまった自分の親とみるか、認知症をもった、とても個性的な行動をとる高齢者とみるか、それは決定的なちがいです。
つまり、他人である私たちは、その特徴的な行動も含めて、いま、目の前のこの人があるがままの本人だととらえて、認知症の高齢者に向き合うことができるということです。子どもであるあなたが感じるような嫌悪感や拒否感、否定の気持ちばかりに追い込まれることなく、介護することができるのです。