特に目を覆いたくなるのが2015年以降で、高橋純平(引退)、小沢怜史(戦力外となりヤクルトに移籍)、田中正義(近藤健介の人的補償で日本ハムに移籍)、古谷優人(窃盗事件が発覚して自由契約)、吉住晴斗(引退)、高橋礼(トレードで巨人に移籍)、佐藤直樹(戦力外となり育成再契約)と多くの選手が戦力にならないまま退団、もしくは育成契約となっているのだ。これを見ても甲斐野の存在がチームにとって非常に貴重だったことは間違いないだろう。
以前のソフトバンクであれば上位指名の選手が伸び悩んでも大量に指名した育成選手がそれをカバーしていたが、近年育成ドラフトで入団した選手を見ても、完全に一軍の戦力と言える存在となったのは周東佑京(2017年育成2位)と大関友久(2019年育成2位)くらいしか見当たらない。オスナのような他球団で成功した外国人選手や、FAでの補強で強さはある程度維持しているものの、スカウティングと育成が上手く機能していない部分が大きいことは確かである。
もうひとつ気になるのが、ソフトバンクが“見切った”選手が他球団で活躍しているという点だ。前述した選手の中でも田中は昨年日本ハムでクローザーとして活躍し、小沢もヤクルトで貴重な戦力となっている。また現役ドラフトで阪神に移籍した大竹耕太郎も見事な活躍でチームのリーグ優勝、日本一に大きく貢献した。このオフには甲斐野以外にも高橋、泉圭輔が揃ってトレードで巨人に移籍し、自由契約となった森はDeNA、嘉弥真新也(2011年5位)と増田珠(2017年3位)はヤクルト、上林誠知(2013年4位)は中日に入団と、今季から他球団でプレーすることになる元ソフトバンク選手は非常に多い。彼らが揃って中心選手となるようなことになれば、またソフトバンクのフロント陣が批判にさらされる可能性は高いだろう。
多くの費用をかけてファームの施設を充実させ、選手の育成についても様々な試みを行っていると言われるソフトバンクだが、それが結果として表れる日は来るのだろうか。そんな不安も感じさせる今回の人的補償騒動だった。(文・西尾典文)
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。