心臓の細胞の電気活動を計測する装置に向かう黒川洵子さん=2014年1月、静岡県立大学、黒川洵子さん提供

 私は男女差の研究を薬や医療にも生かしたいと教授選で言って、静岡県立大に行きました。心電図には男女差があるということは心電図が生まれたころからわかっていたんです。でも、その原因は説明がつかなかった。そこに一石を投じる発見をしていたので、これを発展させて循環器系の性差を理解したいと熱く語りました。

研究の方向性が決まった

 そんなふうに自分のやりたいことがはっきりしてきたのは、東京医科歯科大学で准教授になってからです。それまでは薬学研究者として「言われたことは何でもやります」みたいな感じでした。

 当時、出産・育児と研究の両立を支援しようという国の政策があって、医科歯科大が対象校に採択され、女性研究者支援室ができました。子育て中だった私は最初から委員に呼んでいただけた。支援室長に就任されたのが、内科医で特任教授の荒木葉子先生で、学内に保育園も、派遣型病児保育の利用制度も立ち上がって、みるみるうちに環境が良くなりました。うちの息子も学内の保育園に何度かお世話になり、本当に助かった。病児保育制度は使わずじまいでしたが、いざというときに使えるというのは大きな安心感でしたね。

 荒木先生は性差医学にご興味をお持ちで、「医学研究にも関連させたいわね」って最初からおっしゃっていて、それで内外の性差医学の専門家をお招きして講演していただくシリーズをやったんです。私は委員として事務局をやりました。はじめは、すごく受動的だったんですが、国際的に著名なベルリン大学の女性教授や、先ほどの話に出た天野恵子先生らをお招きし、直接お話を聞くなかで徐々に自分のコアが固まっていき、研究の方向性が決まりました。

当初は「うさんくさく」感じていた

――そう決意したころ、薬学の世界では性差は注目されていなかった。

 そうなんですよ。あのころは、少ない回数の実験の結果を都合良く解釈して、男の人はこう、女の人はこうと決めつけるような話も横行していて、むしろ性差研究は科学的な見方をする人から反発を受けていました。

 そもそも、男女の差を科学的に調べるには大人数を集めた研究が必要なんです。人は個人差が大きいので。ましてや薬の効果を調べるとなれば、病気の状態だって個人で全然違うわけじゃないですか。国レベルどころか国際レベルの大型研究が必要なんですよ。でも、その時代、そういうのは行われていなかった。にもかかわらず、話題性があるからと、男女差を決めつけたような情報が拡散していることに対し、私も一科学者として、うさんくさく感じていました。

――それなのに、なぜ?

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