共働きがあたりまえでも父親の主軸は職場にある

 こうした声に社会も手をこまねいているわけではない。男性育休の取得率を上げるために取り組む企業も増えた。政府も、幼稚園と保育園の良さを併せ持つ預かり時間の長い「認定こども園」を設立したり、地域型保育事業を拡大したりと対策し、待機児童数は減少傾向にある。東京都は「ベビーシッター利用支援事業」を実施。助成制度を設けることで、ベビーシッターの利用費用を抑えられるようになった。

 少しずつ、社会も変わってきている。それでも今なお、金原さんのような声が上がると、大きな共感で迎えられるということは、母親の本当のしんどさには、手が差し伸べられていないのではないか。

「共働きが当たり前の時代になりましたが、父親の主軸は職場にあり、可能な範囲で家庭に降りてくる状況です。必然的に、母は仕事と育児のために駆けずり回ることになる。仕事で子どもに我慢をさせているんじゃないか、職場にも、時短勤務や早退なんかで迷惑をかけているんじゃないか、と思う。母親が罪悪感を抱かないといけない状況に追い込まれているのが、現代の母親の位置なのではないでしょうか」

 そう指摘するのは、『母性の抑圧と抵抗』(晃洋書房)の著書もある大阪大学大学院人間科学研究科招へい研究員の元橋利恵さん。実際、国立社会保障・人口問題研究所が22年に実施した「第7回全国家庭動向調査」によれば、妻の1日の平均育児時間は、平日が524分、休日が724分、夫は平日が117分、休日が423分。18年の調査よりは妻の育児分担の割合は減ったが、7割以上の育児を妻が担っているのが現実だ。

 北海道で建設会社の事務職をしている米山緑さん(仮名・32)は、4歳の長女と2歳の双子の母親。時短勤務で、午後4時に退社すると、保育園に娘たちをお迎えに行き、帰宅。夕飯を作り、食べさせ、洗濯機をまわし、子どもをお風呂に入れ、自分も髪と体を洗い、着替えさせ、寝かしつけるまでを一人でやらなければならない。

「もっと子どもたちに手がかかるときは、夫も定時で帰ってきてたのに、少し手が離れると、帰宅が遅くなってきて。この一番大変な時間に夫がいるだけで、全然違うのにと思います」

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