とはいえ、夫の残業代も家計の一部になっている。自身は時短勤務のため、フルタイムで働くよりもだいぶ給料が下がった。子どもの体調によっては、会社を休み、早退しなくてはならない。

「子どもがちょっとせきをしているくらいなら休ませずに、保育園に預けます。園から電話がかかってきて早退するほうが、まだ気持ち的に楽だから。子どもにも会社にも申し訳ないと思うのですが……」

 田村紀子さん(仮名・53)は中学のときからの夢だった建築士になり、建設会社でバリバリ働いていた。仕事は忙しく、月100時間の残業も。同じ会社の男性と26歳で結婚、長女を妊娠すると、両立など考えることもできず、会社をやめる選択肢しかなかった。33歳で長女を、34歳で次女を出産。夫は仕事優先で、母子が寝てから帰宅するような毎日。

「夫は土日も資格の勉強をしていました。私が40度の熱を出したとき、子どもを見られる状態じゃなく、『お願いだから仕事を休んで』と言ったのですが、会社へ行ってしまって。あのときの後ろ姿は、今でも忘れられない」

 おそらく多くの父親が、「いざとなったら俺がやる」とは思っているのだろう。でも、その「いざ」は、40度の熱が出るような場面だけでなく、母親からすれば日常にたくさん存在するのだ。元橋さんは言う。

「いまだに母親には生まれつき母性があり、母親のほうが育児に向いている、という認識がありますよね。たとえば子どもが泣いたら、『お母さんじゃないとダメ』というような。でもそれは単純に、母親が普段からきめ細かいケアを積み重ねてきたというだけ。男社会の日本で、働き手である男性が気にしなくてすむように、こうした認識が利用されているのではないでしょうか」

(編集部・大川恵実)

AERA 2024年1月1-8日合併号より抜粋

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