今回の取材で、社会に望むことは何かを尋ねると、「夫に定時に帰ってきてほしい」という答えが一番多かった。そのためにはまず、社員全員が定時退社にならないと難しい(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 国や企業は両立支援策を拡充させ、男性育休を推進する企業も増えた。なのに、相変わらず、母でいることがしんどいのはなぜなのか。物理的な忙しさと「母であれ」というプレッシャーに押しつぶされそうな母たちの声を聴いた。AERA 2024年1月1-8日合併号より。

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 新聞をめくる柴田幸子さん(仮名・48)の手が止まった。「心なき育児ロボット/責任の重さと孤立感/苦しくて窒息しそう」の見出しが目に飛び込む。11月15日の朝日新聞朝刊に掲載された作家・金原ひとみさんの寄稿文。書かれていたのは、2人の子どもを育てる中で味わった金原さんの母としての苦しみ、閉塞(へいそく)感、孤立感だった。

「これは私だ!」

 思わず柴田さんはそのページを切り抜いた。不育症で4回流産を繰り返し、5年の治療を経て、33歳のときにやっと無事に誕生した我が子。嬉しいと思ったのもつかの間、「この子に何かあったらどうしよう」と不安にさいなまれるようになる。朝、仕事に行く夫を見送ると、新生児と2人で家に取り残される。目を離したら死んでしまうのではないかという恐怖で、何も手につかない。泣いたら世話をして、あとはボーッと赤ん坊を見つめる日々。

「本当に過酷で。余裕がなく、かわいいとか、楽しいとか思えなかった。金原さんが育児の日々を『あれはそれほどまでに、非人道的な生活だった』と書かれていて、深く同意しました。自分のつらさを言語化してくれた、と」

 金原さんの寄稿からは、出産後、忙しい夫と「壮絶な仕事時間の奪い合い」になったこと、産後うつに陥り自殺衝動にかられたこと、子どもへの責任の重さを感じる一方で、子どもの存在が支えだったというジレンマなど、育児に追い詰められてきた様子がうかがえる。それはこれまで、多くの母親が抱えてきた育児の苦しさと同じだろう。

 母親を苦しめる原因は、これまでにも取り上げられてきた。2015年頃から「ワンオペ育児」が問題になり、16年には「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルの匿名ブログをきっかけに、待機児童問題が明らかになった。22年に出版された『母親になって後悔してる』(新潮社)は、イスラエルの社会学者が、母親になったことを後悔する23人にインタビューし、その背景を探った一冊。日本の母親たちからも共感の声があがった。

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