本好きなら気になる読書家の書棚。どんな本が並べられているのか。相撲・音楽ライターの和田靜香さんの書棚を見せていただいた。AERA 2024年1月1-8日合併号より。
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和田靜香さんが「おばあちゃんの家みたいでしょ」と話す都内の自宅。友人の両親が暮らしていたという部屋の佇まいはまさに古民家ふう。カラーボックスを重ねた簡素な書棚に「和田ワールド」が凝縮されていた。
和田さんが特に思い入れのある一冊は、林芙美子著『放浪記』。10年ほど前の一番苦しかった時期に、近所の古書店でたまたま目にして購入した。昭和初期に東京で下宿暮らしを始めた著者が貧困にあえぐ日々をつづった、言わずもがなの自伝の名著。内容はうっすら知っていたが、読み始めると一気に引き込まれたという。
「お金がなくて苦しい、とひたすら書き連ね、文句ばっかり言っている。これって、私じゃないかと思って」
当時の和田さんは、ライター稼業だけでは食べていけず、様々なアルバイトを転々とし、40代半ばにしてコンビニ店員にデビューするという経験もしていた。
「自己責任に押しつぶされそうになって、苦しくて苦しくて。でも、どうしたらいいか全くわからないし、どうにもならない。マシンガンがあったら外でぶっ放したいぐらい鬱屈していました」
そんな時に出会った『放浪記』。「地球よパンパンとまっぷたつに割れてしまえと、呶鳴ったところで……」といった、激情をさらりと表現する文章に触れ、「本当にぶっ放している人がいる」と驚いた。貧困の渦中でもどこか朗らかな筆致はどん底の和田さんに、「私もふてぶてしく書こう」と決めさせた。
本棚で目につくのは相撲関係の本。というより、部屋じゅうに元横綱の「白鵬グッズ」が飾られている。「推し活においては勝ち組」を自負する和田さんに、いち押しの相撲本を尋ねると、高橋秀実著『おすもうさん』を挙げた。ノンフィクション作家の高橋さんが現役力士や親方衆に、角界のルールの由来やその意味をしつこく尋ねて回る。答えに窮する関係者の姿もユーモラスに描かれている。
「スポーツであり神事であり、興行でもある相撲文化は、ふんわり適当に決まっている部分も多いことが分かります。私は八百長相撲も相手を勝たせてあげたい理由があるのだろうと肯定しますが、それぐらいの寛容さで観覧するのが本来の大相撲だったのだと思います」