高峰の山頂はどこが最高点かはっきりしないケースが多い。近年はGPSやドローン技術の発達で地形的な最高地点が明確化されつつあるが、従来の登山家は過去の記録などで最高地点とされる場所を目指し、現地でさらに高い場所がないか目視で確認して登頂を確信してきた。竹内さんはマナスルとダウラギリで「真の山頂」に立っていないとされたが、こう話す。
「例えばダウラギリは雪に覆われたピークと岩が露出したピークがあります。当時、多くの登山家が『最高地点は岩が露出している。雪のピークと間違えないように』とアドバイスをくれました。頂上とされる場所に到達し、目視でもそこが最高地点だと思えたんです」
世界中から疑問の声
当時は竹内さんが登ったピークこそがゆるぎない山頂だったのだ。一方、ユルガルスキーの検証で最高地点とされたのはそこではなかったという。
こうしたケースを「登頂していない」とみなすことには、世界中から疑問の声が上がった。登山雑誌の出版社・山と溪谷社取締役で、「山と溪谷」やクライミング専門誌「ROCK & SNOW」の編集長を歴任してきた萩原浩司さんはこう話す。
「宗教的な理由などで最高地点に立つことができない山もあり、地形的な最高点にこだわる必要があるかは疑問です。それに、そもそも登山は自己満足の世界。明らかにもっと高いピークがあるのに行かなかったなら登頂と言えないでしょうが、自分が頂上だと思う場所に到達できたのなら、それでいいのでは」
登山の大衆化・商業化
登山の内容も大きく変容した。メスナーが登山界のレジェンドとして君臨するのは、単に世界初の14座登頂者だからではない。当時、8千メートル峰には大規模な隊で挑むのが一般的だった。そんな時代に、メスナーはアルパインスタイルという少人数での登山を追求し、酸素ボンベを使わず、時に単独で新ルートからの登頂に挑戦し続けた。
一方、近年の8千メートル峰登山は急速に大衆化・商業化している。萩原さんは続ける。
「メスナーの登山は当時の常識を一新させる革新的なものでした。対して近年の14座登頂のなかにはシェルパの手厚いサポートを受け、十分な酸素を吸いながら登るケースもあります。そうした商業登山に乗れば、8千メートル峰登頂は技術的には難しくありません。同じ14座という枠で比べるのは無理がありますし、過去の功績を否定することもできないでしょう」
「登山はもっと自由なもの」と話すのは、ガイドとしてエベレスト7回、マナスル3回などの登頂経験がある国際山岳ガイドの近藤謙司さんだ。