もちろん、そういう生活も長く続けるとちょっと飽きてきて、また不自由を求めることになるのですが、喩(たと)えるならば、出かけるためにおめかしする楽しみと、きつい服を脱いで厚い化粧を落とした時のすっきり感は交互に味わうととても刺激的だということです。

 今現在同棲している方のことを可愛くて仕方ないと表現されているのは、きっとまだ関係がそれほど冷え切っておらず、かといって彼との未来は描けない、というところではないでしょうか。もっと冷えてくるとペットのように可愛いとは思えず、毛穴の一つにすら嫌悪感を覚え、疲れてソファで口を開けて寝ている姿ですら、この世で最も不快な生き物のように見えてくるかもしれません。というか、部屋の中に特にもう恋愛感情を抱いていない体積の大きな生き物がいるのは、かなり耐え難くなってくるかもしれません。あるいは情や可愛げがいつしか愛に変わって彼との未来が描けるようになるのかもしれません。そこは私にはわかりません。

 それなりに彼の尊厳を守れる今の状態で解放を求めて独り立ちするのもよし、可愛かったはずの彼がポル・ポトやヒトラーに見えてくるまで待ってから勢いよく引っ越すのもよし。いずれにせよ待っているのは、一人の寂しい夜がしばらくはまったく気にならないほど、開放的で自由な時間だと私は思います。バツイチ三十代後半はバツナシ四十歳の私よりハクがあって良い気がするし、独り身になってみると独り身女子たちの夜の部活動があることに気づいて意外と愉快に暮らせると思います。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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