木工や手芸、動物の生態など興味のあることを計画して行う「プロジェクト」。自主的な学びが生まれていく(写真:箕面こどもの森学園提供)

自らが創り手となる

 同校の卒業生で現在ミュージシャンとして活躍する沼尾翔子さんは、小3から2年間の不登校を経て、母に連れられてやってきた。「トットちゃんとお母さんみたいですよね」と藤田さんは振り返る。

「彼女は音楽の時間に、先生が決めた曲を先生が決めたように歌うことが嫌だったようです。ここで『自分の好きな音楽を好きにやっていいんだ』と知ることができたことはこの学校での学びの一つだったと思います」

 いま小中学生の不登校児童生徒数は29万9048人。(22年度、文科省発表)。そうした子どもたちを受け入れるオルタナティブスクール(フリースクールを含む)は全国に500以上あると言われる。藤田さんは言う。

「リーマン・ショックやコロナ禍などで人々の価値観が大きく変わり、日本の教育が行き詰まっていると感じる人が増えている。いまは不登校児に限らず積極的にオルタナティブスクールを選ぶ保護者も多いんです」

 多様な子どもたちの「居場所」としての機能はあるが、しかしそれだけではないと言う。

「学校とは、自らが創り手となる学びの場だと思うのです。良い学びとは一人一人が自分で決めて、自分で創っていくもの。それを大人がサポートすることで、子どもたちが育っていく。トモエ学園はそれを実践していた場所で、例えばアルコールランプで実験ばかりしていた男の子は日本を代表する物理学者になった。小林宗作先生には本来の学びとはこういうものだという理念があったと思います」

 いまこそ、トットちゃんに学ぶことは多いのだ。(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年12月18日号より抜粋

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