トットちゃんの通った「トモエ学園」のような「箕面こどもの森学園」。自分の好きな学科を選んだり、自分で学ぶ内容を決めることができる(写真:箕面こどもの森学園提供)
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 42年ぶりの続編出版とアニメーション映画化が話題の「窓ぎわのトットちゃん」。時を経て共感を集めているのは、トットちゃんを取り巻く環境。今の子どもたちにも必要とされているオルタナティブ教育とは。AERA2023年12月18日号より。

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 国立成育医療研究センター副院長の小枝達也さん(64)は『窓際のトットちゃん』を読み「あの時代にこんなに理解のある教育者がいたのか!と感動しました」と話す。

「『トモエ学園』では小児まひのある、泰明(やすあき)ちゃんなど個性豊かな子どもたちが一緒に学び、運動会やプールを楽しんでいる。まさに文部科学省が2012年から推進しだしたインクルーシブ教育の先駆けです」

 小枝さんは長年、医療と学校現場の両面から、知的障害や発達障害などのある子どもたちの対応に尽力してきた。近年「一人一人に合った教育を」という環境がようやく整ってきていると感じている。

「トットちゃんが通った『トモエ学園』はいまでいうフリースクールだと思います。時間割はなく、何を学ぶかを子どもたちが自分で決める。体験的な学習など選択肢も多く、さまざまな子にとって自分の居場所があると思える。大切なのは『子どもたちを信用している』ということです。こんな学校があるといいなと思います」

 実は「トモエ学園」に憧れて学校を創った人がいる。大阪府箕面(みのお)市にあるオルタナティブスクール「箕面こどもの森学園」の前校長で認定NPO法人「コクレオの森」代表理事の藤田美保さん(50)だ。

「学校が退屈だなと思っていた小3のときに『トットちゃん』を読んで、親に泣きながら『トモエ学園みたいな学校を探して!』と頼みました(笑)」

 願いは叶(かな)わず、その後小学校の教員になる。しかし、教育観のベースにトットちゃんのトモエ学園があったため、着任初日から学校現場に違和感を抱いた。

「先生にも自由がなく、子どもたちにも自由がない。決められたことを決められたようにするしかない現実を突きつけられて」

 3年で教員を辞め、「大阪に新しい学校を創る会」に参加。2004年にメンバーたちと箕面市に「わくわく子ども学校」をスタートさせ、09年に「箕面こどもの森学園」と改称し、15年からは中学部も開校。北海道や奄美大島から移住して通う児童もいるほどの人気校だ。

「箕面こどもの森学園」には決められた時間割はなく、子どもたちは自分で学びたいことを見つけ、自分で学習計画を作る。国語でも算数でも体育でも「好きな学科からやってよい」という「トモエ学園」の学びそのものだ。自由度は高いが「決して好き勝手にすることではない」と藤田さんはいう。

「子どもを一人の人間として尊重し、対話をし、子どもの声から学びを創っていく。自分の声を大切にされた子は人の声も大切にできるようになります」

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