聖アガタの死から半世紀ほどが経過した4世紀初頭、シチリア島の南東部シラクサ市に、イエス・キリストを信じる乙女ルキアがいました。ルキアは病気の母親を連れてシチリア島では特に有名な聖人アガタの墓で祈ると、聖アガタが現れて母は完治し、そのことがルキアの信仰を強めました。ルキアという名前は有名な漫画の登場人物として使われていますが、その英語名のルーシーは、英語圏では人気のある名前です。

 ルキアは裕福な貴族の娘でしたが、イエスの教えに忠実に貧しい人たちに財産を惜しげもなく分配していました。それに気づいた彼女の婚約者は激怒し、ルキアがクリスチャンであることをシラクサ市の長官に告発しました。クリスチャンであることが発覚した者は処罰の対象となる時代が、当時は依然として続いていたのです。

 長官はルキアの信仰を批判しましたが、逆に論破されて激怒し、命じます。

「1000人の屈強な男たちを集めよ。この愚かな娘を辱めてやるのだ!」

 1000人の男たちがルキアを動かそうとしましたが、聖女は神の力に護られ、一歩も動かせませんでした。彼らは数頭の雄牛にルキアを引かせましたが、聖女は微動だにせず、さらに魔術師が呪文を唱えても、まったく効果はありませんでした。最終的には兵士たちが彼女の喉に剣を突き刺しましたが、最期まで聖女は平然としていました。

「霊的姉アガタがカタニアの守護者となったように、わたしはこのシラクサの守護者となる役割を主から与えられました。イエス様の教えに平和がもたらされます」

 彼女がその言葉を言い終わらないうちにローマ帝国の兵士がちょうど到着し、長官は汚職の容疑で逮捕され、ローマに連行されたのちに斬首されました。

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