本書の想定では、もし日本に関係する有事が半年でも続いた場合、このわずかな食料の保管量では、国内では食料不足から餓死者が続出する悪夢が現実になる恐れがある。特に人口が集中する東京や大阪には食料の備蓄も在庫もほとんどなく、交通事情から地方の余剰食料を運ぶにも苦労するおそれが十分にある。なんといっても、東京や大阪の食料自給率はゼロに等しいことをこの2つの大都市住民は知っておくべきであろう。
日本に関係すると想定される有事とは何かというと、朝鮮半島・台湾海峡・尖閣諸島での紛争や突発的な超大国間軍事行動などである。いつ起きてもおかしくないと言われている南海トラフ地震や首都直下型地震も、広い意味では有事に属するのではなかろうか。
これらの有事を想定した国内食料システムの構築が急務だと思われるが、政府にはその気も問題意識もなさそうである。本来は、国民に対しては少なくとも半年分以上の食料を家庭で備蓄することを勧め、生産現場に対しては普段から生産・流通体制のあり方の構築を実践的・自主的に促すべきではなかろうか? もちろんそれには、農政のあり方を基本に立ち返って再考することが不可欠であろう。
農家従属命令
政府は最近になってどこにそんなことができる根拠があるかは知らないが、有事の際の食料調達を図るために、「食料増産命令」という強硬な手を打つことができる法律を検討し始めたという。骨子は輸入が止まるなどの事態が起これば、農家などにコメや畜産物の生産を増やす命令を出すというのである。付け焼き刃のような気がするのは筆者だけだろうか?