そこで山岳医療救助機構は、独自に開発した「DKシェルター」の普及を進めている。
1、2人用で重さは189グラム。詰めれば3人まで入れる。より大型のサイズもある。大城さんによると、山岳救助隊でも使われており、風速30メートルくらいまでは耐えられる。実験では、中に人が入ると体温によって10分で室温が5度上がったという。
さらにお湯を魔法瓶水筒に入れて持っていき、プラスチックバッグに移して湯たんぽにして体幹(胸)を温めると、低体温症からの回復に大きな効果がある。
「夏山登山でも最低限必要なのは食料とシェルターで、これからの季節は湯たんぽができる準備をしておいたほうがいいと思います」
簡単に行けても「身近」な環境ではない
警察庁などによると、今年7~8月に全国で起きた山岳遭難は、昨年同時期よりも70件多い738件。遭難者数は昨年より23人多い809人で、いずれも統計が残る1968年以降で最多となった。
そして遭難者のうち、60代、70代がそれぞれ全体の2割超を占めたという。
夏場の山岳遭難はここ数年、増えている。警察庁は新型コロナ下で「密」を避けるレジャーとして登山が注目され、さらに行動制限が解除されたことで登山を楽しむ人が増えたとみているという。
しかし、登山の初心者や久しぶりに山に登る人にとって、標高が高い場所までロープウェイで簡単に行ける山は人気があるが、ふだんの生活と同じ感覚のまま、山の自然環境に飛び込んでしまう危険性があると、大城さんは指摘する。
「北海道の大雪山・旭岳もロープウェイで行ける山ですが、あそこも山頂駅から山頂までは吹きさらしの登山道で、低体温症になってしまう人が多い。簡単に行ける場所なので、身近に感じるかもしれませんが、その気象環境は身近なものではありません。危険性が潜んでいることを十分に認識してほしい」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)