山岳医療救助機構の大城和恵さん=本人提供

経験や技術への過信は禁物

 低体温症の対策は、そうなることを未然に防ぐことが重要だという。

 まずは何かを食べて、体温を保つことだ。カロリーを十分にとらないと、行動できなくなるだけでなく、体温も維持できなくなる。

「特に炭水化物をとると、効率的にエネルギーに変わります。私が好きなのはあんパンで、あんこにはブドウ糖が含まれているので吸収が非常に早い。パン生地はデンプン質なのでゆっくりと効いてくる。それをこまめに食べ続けることが重要です」

 エネルギーは筋肉の伸縮によって消費され、体温が高まる。ところが、中高年になると、筋肉量が低下し、体温を上げる力が弱まっていく。先の調査では、低体温症で亡くなった登山者の多くが60代、70代だったという。

「歳をとると体温調節機能が低下し、低体温症のリスクが増すことを理解しておく必要があります。これまでの経験や技術を過信することは危険です」
 

 体を雨や汗で濡らさないことも重要だ。濡れた衣服に接触していると、乾燥している状態より約20倍も体温を奪われやすい。

 防水性と透湿性、防風性を兼ね備えた「ゴアテックス」のような素材を用いた雨具がよく見られるが、秋はそれほど寒くないので中が蒸れて濡れやすい。風を防ぐ効果もあるが、顔や袖まわりの隙間から風は吹き込んでくるので、悪天候では雨具だけでは耐えられない。

 これからの季節はダウンジャケットやフリース、セーターなどの防寒具が必要になる。
 

必須は食料とシェルター

 低体温症になる危険性が高い場所は、木々のない、吹きさらしの稜線だ。

 大丈夫だと思って進んでも、天候が急変したり、落石などのトラブルで行動不能になったりして、稜線から抜け出せなく場合もある。長時間、吹きさらしの中にいると、訓練を積んだ山岳救助隊などでも低体温症の危険にさらされる。

 そこで威力を発揮するのが、テントやシェルターだ。風速20メートルを超えるような風の中でテントのポールを立てるのは難しいが、避難することで体温を維持できる。

 しかし、日帰り登山にテントを持っていく人はほとんどいないだろう。「ツェルト」と呼ばれる軽量の簡易テントもあるが、風にあおられて外気が入りやすい。
 

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ピンチのときに使える「シェルター」