元朝日新聞記者 稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】ニンゲンには全く感じられない秋の気配をきっちり感じてきっちり咲く彼岸花

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 ずっと感じていた違和感の理由が、自分の中で焦点を結んだ気がしたので書く。

 河野太郎デジタル担当相のインタビュー(日経ビジネス)を読んだ。マイナカードの普及を巡り深刻なミスが続発しているのは周知の通りだが、それでもなぜデジタル化を前に進めねばならぬのか、賛否はともかくかなり説得力のある内容だった。だが今回触れたいのはそこではない。

 氏は就任時から「世の中を便利にしていくデジタル庁」と発信していくと言っていたそうだ。そこには、便利になるのは当然皆歓迎よネという「常識」があり、実際インタビュアーもその「常識」を当たり前に共有していて、これからどのくらい便利になるのかに強い関心を寄せている。

 私は途中からお尻がモゾモゾして、そして腑に落ちた。

 私が現代社会に違和感を感じてきたのは、結局はここなのだ。今より「便利」になるのは絶対的に「いいね!」という常識。何しろ原発事故を機に便利を相当レベルまで手放した結果、まさかの幸せを手に入れた人間なのである。そんな私の常識が皆様とズレてしまっているのだ。

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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