私は世の常識ある方々に聞いてみたい。今は30年前よりずっとずっと便利になった。ならばその分、我らは30年前の人よりずっとずっと幸せになったのか? 一つ言わせて頂ければ、便利とは自分の体や頭を使わずとも済むということだ。即ち我らは30年前よりずっとずっと頭も体も使わなくなった。それは本当に幸せと呼べるものだろうか。
もちろんかくいう私もたかだか家電品をほぼ持っていない程度のことであり、昔の人よりは遥かに便利の恩恵を受けて生きている。だが物事には「限度」というものがあるのではないか。
終わりなき便利の追求をやめぬ我らは、今や自然環境まで捻じ曲げ、異常気象や山火事で多くの犠牲を出すところまで来てしまっている。だが未だその狂気を問わず確定申告が便利になるかどうかを気にしている。その二重の狂気が私にはことさら恐ろしく見えるのである。
※AERA 2023年10月2日号