夏井:奥田さんの妄想力とはちょっと違うけど、私も皮膚感覚など五感を刺激される句には、想像力を掻き立てられて、ゾクッとしちゃう。

 片側は海はつとして寒さ哉

 この句は、〈はつとして〉が率直に届いてきた。ああ、似たような体験したことあるなあって。

奥田:子規は徒歩だったのかもしれないけど、今なら自転車や車かな? 何気なく道をぐんぐん進んでいて、途端に視界が開けて、うわ、片側は海だ、とハッとした。

夏井:思いがけず〈海〉の間近に出た驚きとヒヤリとした感覚。季語〈寒さ〉がその感覚を倍増させてるよね。海から吹き付ける潮まじりの風も、肌に突き刺さってきて、さらに寒い。

奥田:ゾクッとか、ヒヤリという意味では、次の句は肝を冷やされたなあ。

 凩や燃えてころがる鉋屑

 きっと、明治の富国強兵時代を象徴するような建設現場なんだろうなと。そんな場所に、厳禁であるはずの火がついた〈鉋屑〉が〈凩〉に吹かれている。燃えちゃうよ~!

夏井:凩で転がる火、という状況が不安感をあおってくるよね。これはきっと、労働現場の焚火の火が〈鉋屑〉についたんじゃないかなと。とにかく、〈燃えてころがる〉に臨場感があるから、火のついた鉋屑が凩に吹かれて転がっていく様子を目で追っているような感覚になるよね。焚火の背後の、働く大工たちの姿も見えてくるようだし、削られる木の香りも立ち上がってきた。

奥田:子規の感覚が俳句にパッキングされているから、百年後の僕らがまた同じ感覚を共有できるんですね。

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病床の子規の姿が目に浮かぶ