奥田:なるほど。空間的広がりや時間的幅のパッキングなら、次の句もそうですか?
夏嵐机上の白紙飛び尽す
一瞬の風にあおられて、〈飛び尽す〉〈机上の白紙〉には爽快感すら感じられる。
夏井:〈夏嵐〉は青葉や青草を吹き渡っていく強い夏の風のこと。この句には、たくさんの白紙が、すべて吹き飛ばされていく鮮やかな映像と共に、驚きと解放感までもがパッキングされてるよね。
この「写真+α」、どう言えばダイレクトに伝わるかな……。あ、『ハリー・ポッター』だ。奥田さん、あのシリーズ本、読んだことある?
奥田:映画は観たけど、本は読んでないなあ。
夏井:ああ、映画の方が分かりやすいかも。ハリーたちが最初にホグワーツの魔法魔術学校を訪れるシーンを覚えてる? 階段がぐるりと回る空間に、たくさんかかってた肖像画。
奥田:えぇ、分かります。
夏井:あの肖像画たち、絵のくせに、通り過ぎる人に笑ったり、それぞれ動いてたよね? あんな感覚に近い。
奥田:ああ、なるほど!
夏井:『ハリー・ポッター』的絵画は、長い時間にわたるドラマはなくて、あくまで静止画がちょっぴり動くだけでしょ。これが、私の感じている俳句的な時間のイメージ。
奥田:へえ。夏井さんはそういう風に俳句を見てるんだ! ほんとに、僕の長い間尺のストーリーが浮かぶのと対照的だなあ。ちなみに僕のは、十七音の中に渦巻くストーリーだけじゃなくて、服装は? とか、どんな帽子? なんてディテールまで想像して、さらにどんどん広げていく感じ。
夏井:もはや特殊能力だね(笑)。だから脚本が書けるんだね。
奥田:妄想力と言ってほしいな(笑)。