政治家を登場させる一方で、少数意見や社会的な弱者をクローズアップ。ジャニー喜多川からの性被害者もいち早く登場させた。戦争の語り部たちも精力的に取材している(撮影/高野楓菜)

 たかまつは、高校生にとって自分の声が社会に届くという体験が何よりの栄養になると語る。

「校則を変えたとか、小さなことでいいんです。小さな成功体験が自信に繋がって、その自信が、社会を変える原動力になる」

 笑下村塾の活動は、芸人たちにとっても活力になっている。ギャラは安いが、教育という現場に関わることができ、高校生のナマの声も聞ける。教員免許を持つスリムクラブの真栄田賢(まえだけん・47)は「教えるのが夢だった。生徒たちの反応に自分が却(かえ)ってエネルギーを貰った」といい、すでに10回ほど出前授業をしているパーマ大佐は「民主主義を教えるたびに、その歪(ゆがみ)も理解できるようになった」と自分の成長を口にする。

野口健の環境学校に参加し社会問題に関心を持つ

 たかまつが今、協力を要請できる芸人は100人を超えるという。クセ強めの芸人もいるが、教育現場に出向く以上、個人の主義・主張は避けるよう研修も行っている。

 群馬県での成功モデルをいずれ、他の自治体にも広げたいとたかまつは意気込む。

 横浜市に生まれた。会社員の父、専業主婦の母、2歳上の姉の4人家族。子どもの頃から足が速く、小学4年から横浜F・マリノスの女子チームでプレーし、将来はサッカー選手を目指すが、両親の反対であえなく頓挫。その一方で、現在の活動の原点にもなる出会いがあった。小4の時に、アルピニスト野口健の環境学校に参加、富士山のごみ拾いをきっかけに社会問題に関心を持つようになった。

「バスやトラック、注射器などが捨てられていることに衝撃を受けました。片付けるには税金が必要。税金の使い道を決める政治に興味を抱いた」

 フェリス女学院中学校に入ってすぐ、読売新聞の子ども記者になった。環境問題について記事にしたかった。だが反響は薄い。そんな時、たまたま手にした太田光と中沢新一の共著『憲法九条を世界遺産に』を読み感銘を受けた。家ではNHKニュースしか見たことがなかったため太田を知らず、「誰、この説得力の凄い人?」と調べてみると、爆笑問題というコンビを組む芸人であることが判明。お笑いの力を知った気がした。

 自分の考えを発信する手段は笑いと決め、学校内で腕を磨く。実際、苦手な英語のスピーチコンテストで余興をしたところ、生徒が大いに盛り上がり「これがお笑いの力だ」と確信。中3の時に「ちびっこ漫才グランプリ」で決勝進出を果たす。

 高1でワタナベコメディスクールに特待生として合格。だが、父に猛反対され入学は見送った。

「ただ、このまま腐るのは避けたかった。サッカーを反対されたときは不貞腐れていたけど、そんな自分はダサいって。親に援助を仰ぐのではなく、自分でスクールの入学資金を貯めようと」

 しかし、たかまつは筋金入りの箱入り娘。しかもフェリス女学院はアルバイト禁止だ。そこで思いついたのが、論文や懸賞で賞金を稼ぐ方法だった。

(文中敬称略)(文・吉井妙子)

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