群馬県立高崎商業高校で。選挙に行く必要性を芸人たちに分かりやすく説明してもらった生徒たちは、納得の表情でゲスト講師らを見送る。講義はゲーム形式で進められるため、ぼんやりする暇がない(撮影/高野楓菜)

 そんな現状を変えたいと立ち上がったのが、たかまつだった。慶應義塾大学時代に総合政策を専攻し、大学院1年の16年に、楽しみながら政治を学び、社会を変えられることを若者に伝えたいと、「笑下村塾」を起業。社名を提案したのは大学の恩師でもあるジャーナリストの下村健一(63)。吉田松陰の松下村塾をもじった。

「大学院時代、お嬢様芸人として知られていましたけど、若者と政治を繋(つな)げたいという熱は半端なかった。政治を芸人たちに語らせ、若者の間口を広げるという発想は、彼女ならではと思った」

 だが、活動は決して順風満帆ではなかった。地域格差をなくしたいと地方の高校へ無料で出前授業を行っていたため、交通費、芸人へのギャラ、教材費などの費用がかさみ、たかまつのタレント活動や講演の収入では賄いきれず、寄付やクラウドファンディングで調達していた。

小さな成功体験が社会を変える原動力になる

 その頃、笑下村塾以外にもNPO法人や教育関連機関が「主権者教育」の課外授業を行っていたが、資金不足で次々に休止に追い込まれ、現在も全国展開している団体は笑下村塾ぐらいだ。

 しかし、たかまつの地道な活動に目を付けていた人がいた。群馬県知事の山本一太(65)だ。山本は知事に就任して以降、自らの頭で未来を考え、動き出し、生き抜く力を持った「始動人」の育成を考え、教育イノベーションプロジェクトに取り組んできたが、たまたまたかまつのYouTubeを見て、目指す方向は同じと声をかけた。若者の投票率の低さに頭を抱えていた山本は、22年7月の参議院選挙に向け、「笑える!政治教育ショー」の出前授業を、県内の公私立高校79校で開催することを依頼。そのための予算3千万円もつけた(実際の執行額は2600万円)。

 たかまつにも渡りに船だった。お金のストレスなく授業が出来るのはこの上なく有り難かった。芸人48組と手分けしながら、4月から投票期日の7月まで49校、約1万人の高校3年生に出前授業を行った。その結果、県内の10代の投票率は前回より8ポイントも上がり、山本は驚いた。

「コミュニケーションのプロである芸人が伝えることによって、若者がこれほど変わるとは。大きな成果があったので、たかまつさんの会社には今年も引き続き授業をお願いしています」

 何より山本が嬉しかったのは、社会課題を提言する高校生が増えたことだという。放課後の自習室がないという声には県庁の一室を開放し、自転車通学路が狭いという指摘には早速整備に着手するなど、高校生の声を大事にしている。

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