生徒らに、自分が変えたいと思っていること、そのための方法があるかを書かせ、社会課題の気づき、解決の手段を想定させる。主権者教育の先進国である欧州で現地視察し、多くを学んだ経験を活かす(撮影/高野楓菜)

「人狼ゲームを使うことによって、政治を話す敷居を下げられる。子どもたちに政治を語ることは楽しいと思ってもらえれば成功です」

 授業は90分間。しかし話題やテーマの展開が早く、芸人の巧みな話術に乗せられ、時間はあっという間に過ぎた。生徒たちは授業を受ける前と後では、明らかに表情が変わった。自分でも世の中を変えられることに気づいた自信とでもいおうか。生徒たちからはこんな声が聞かれた。

「普段、友達と政治の話はしないけど、ゲーム感覚で楽しくできた」

「社会を変えられるかもしれないと希望が持てた」

「選挙には必ず行こうと決めた」

 出前授業の後に、子どもたちが少し大人びた表情を見せる瞬間に出会うことが、たかまつには何より嬉しい。

 子どもたちに自らの行動で社会は変えられることを教えたいと、たかまつは「主権者教育」に迸(ほとばし)るような情熱をかけている。政治や選挙の仕組みを得意のお笑い芸で分かりやすく伝え、社会課題を自分事としその解決法を考えさせる出前授業を、全国の学校で行っている。

「笑える!政治教育ショー」と銘打った授業をスタートさせて7年、これまで7万人以上の子どもたちに、主権者としての意識を喚起してきた。

 そもそも、主権者教育とは何か。一般的には「国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成していくこと」とされ、2016年、選挙権年齢が18歳に引き下げられたのを機に、総務省や文部科学省はその大事さを訴えてはいるものの、教育現場に浸透しているかと言えば、必ずしもそうではない。

 文科省が19年度に行った調査によると、授業で主権者教育を行った学校は9割に上るが、では具体的にどんな考えでどんな行動をとるかという実践教育までには踏み込んでいない。そのため、いざ選挙になっても、だれに投票すればいいか判断出来ず、結局選挙に行かない現象が起きる。

 OECD主要国の18~24歳の投票率調査でも、8割前後のデンマーク、オーストリア、スウェーデンに比べ、日本は3割程度と極端に低い。また、22年に日本財団が行った18歳の意識調査で、「自分の行動で、国や社会を変えられると思うか」の問いに、中国やインドは7割以上が「はい」と答えたのに対し、日本は3割と調査国中最下位。いかに主権者教育が浸透していないかが分かる。

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