性被害の当事者団体である一般社団法人「Spring」代表の田所由羽さんは、「何重もの問題があった」と指摘する。
「まず、子どもへの性加害だということと、男性への性加害だということです」
子どもの時に受けた性被害は、本人も被害と認識しづらく、また「男は性被害に遭わない」といった固定観念から、周囲からも認識されにくいという。
「そしてさらに、 大きな権力を持った芸能事務所のトップによる性加害だということ、その性加害をジャニーズ事務所は組織で隠蔽し、メディアも沈黙していました。こうして、何重にも声を上げにくい仕組みがずっと続いていたのだと思います」
と話す田所さんたちSpringは、7月に施行された、性犯罪を適正に処罰する改正刑法の取り組みを続けてきた。その結果、「不同意わいせつ罪」と「不同意性交罪」ができ、「同意」のない性行為は犯罪と明記された。被害者の意思に重点が置かれた、大きな一歩となった。
ただ、課題が残った。公訴時効だ。改正刑法では、公訴時効は不同意わいせつ罪が7年から12年、不同意性交罪が10年から15年に延長された。また、18歳未満で受けた被害については、18歳までの年月を加え時効を遅らせることもできるようにもなった。つまり、不同意性交罪の場合、被害を受けたのが18歳未満なら、起点が18歳になるため時効成立は「33歳」となる。
しかし、特に幼少期は被害の認識が難しいとされる。トラウマと結びつく記憶喪失もある。Springが20年に実施した実態調査では、挿入を伴う性被害799件のうち、被害を認識するのに26年以上かかった事例が35件、31年以上が19件に上った。
「日本は諸外国に比べて公訴時効までの期間が短い。ノルウェーや韓国は若年者への性犯罪の公訴時効は撤廃され、フランスは被害者が48歳、ドイツは50歳まで公訴できます。被害の実態に即し、日本も公訴時効を撤廃するか、50歳近くまで公訴できるようするべきです」(田所さん)